この記事の要点

海外飲食店の内装は、店の価値を伝える要素と、現地の利用・施工条件に合わせる要素を分けて設計します。料理の見え方、照明、素材、客席の距離、働く人の動線を一緒に考えることで、印象と運営を両立しやすくなります。

日本らしさを、店の体験として言葉にする

海外で日本の店をつくるとき、「和風にしたい」という説明だけでは、関係者が想像する完成形がそろいません。落ち着いて料理に向き合う店なのか、活気のある調理を楽しむ店なのか、日本の街の空気を感じる店なのか。まずは、来店した人に感じてほしいことを言葉にします。

その言葉を、入口、席、料理、接客、店を出る場面へと置き換えます。「静けさ」を目指すなら、装飾を減らすだけでなく、音やスタッフの移動も考える必要があります。「活気」を目指すなら、厨房の見せ方や声の届き方が設計の検討項目になります。

残すもの、変えるものを先に決める

国内店の雰囲気を展開する場合でも、すべての材料や寸法をそのまま持ち込む必要はありません。料理が映えるカウンター、特徴的な照明、入口での印象など、ブランドを伝える核を決めます。それ以外は、現地の材料や加工方法で同じ狙いを実現できないかを検討します。

残したい価値調整を検討する部分
料理が主役になる見え方照明器具、色味、設置位置、電気条件
心地よい距離感席の構成、通路、荷物置き、利用人数
素材の表情現地調達品、仕上げ、補修方法
店らしい入口看板、施設ルール、視認性、待つ場所
+81(Manilaの店舗空間
掲載事例:+81 / Manila|engineの設計事例。本文の一般的な確認事項と、個別案件の契約・工事条件は異なります。

客席の見た目と、働く人の動きを一緒に考える

客席数を増やすことだけが、店の使いやすさにつながるわけではありません。注文、配膳、下膳、会計、清掃の動きが重なると、混雑時に料理の提供が遅れたり、客席の落ち着きが損なわれたりします。スタッフが使う収納や作業台も含めて配置します。

設計段階で、来店から退店までの一組の動きと、スタッフの一連の作業を図面上でたどります。大人数客、荷物の多い客、配達の受け渡しなど、実際に想定する利用場面も確認しましょう。見せたい場所と、隠したい作業を整理することが、整った空間につながります。

マニラ「+81」に見る、テーマのつくり方

engineが設計したマニラの「+81」は、公式の紹介で、バーとクラブの中間を目指し、日本をテーマにした空間とされています。80〜90年代初頭の日本の文化を手がかりに、ネオンを取り入れたデザインが紹介されています。

この事例から考えられるのは、「日本らしさ」を一つの和風表現に固定しなくてもよいということです。出店する店が何を伝えたいのかを絞り、そのテーマを照明、色、素材、入口へと展開する考え方ができます。これは公開事例をもとにした設計上の読み取りであり、売上や集客の効果を示すものではありません。

完成写真だけでなく、保守まで設計する

日々の清掃や、傷んだ部分の交換ができるかは、開業後の見え方を左右します。特注照明や輸入家具を採用する場合は、部品の入手先と交換方法を確認します。壊れたときに誰へ連絡するかが分からない状態を残さないようにします。

設計会社へは、好みの写真だけでなく、客層、料理、想定価格、働く人数、避けたいことも共有しましょう。完成形の見た目と、毎日の営業の両方を話すことで、実際に使えるデザインへ近づきます。

よくある質問

日本の材料を輸入しないと日本らしさは出せませんか?

必ずしもそうではありません。素材の見え方、光、余白、料理の見せ方などでも表現できます。輸入する意味がある部分と、現地調達で実現できる部分を分けます。

完成予想図があれば現地で施工できますか?

完成予想図だけでは寸法や仕様が不足します。施工図面、材料・設備の仕様、必要な現地確認をそろえ、施工側が判断できる情報にする必要があります。

参考情報・掲載写真

情報確認日:2026年9月28日。各国の制度や条件は変更される場合があります。具体的な営業内容・所在地に合わせ、現地の担当機関や専門家へ確認してください。

制作:engine JOURNAL